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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)196号 判決

控訴人(原告) 中野洋

被控訴人(被告) 日本国有鉄道清算事業団

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人と被控訴人との間に期間の定めのない雇用関係が存在することを確認する。被控訴人は控訴人に対し金一四万八八〇一円及び昭和五五年二月より毎月二〇日限り金一八万七八〇〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五五年二月五日(ただし本訴状送達の時に弁済期未到来部分については各弁済期の翌日)より各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり補正するほか、原判決事実摘示第二(添付の別表を含む。)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決事実摘示(第二)中「被告」とあるのは、以下に訂正する場合のほか、すべて「日本国有鉄道」(以下、「国鉄」という。)と読み替える。

2  原判決二丁裏一〇行目の「である。」を「であつたが、日本国有鉄道改革法(昭和六一年法律第八七号)一五条、日本国有鉄道清算事業団法(昭和六一年法律第九〇号)附則第二条等の規定に基づき、昭和六二年四月一日日本国有鉄道清算事業団(被控訴人)となり、被控訴人がその地位を承継した。」と改める。

3  同二丁裏一一行目の「被告」を「国鉄(昭和六二年四月一日以降は被控訴人)」と改める。

4  同三丁表四行目の「被告」をいずれも「被控訴人」と改める。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、当審で提出された資料を含む本件全資料を検討した結果、控訴人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の理由説示(原判決三二丁表二行目から同五八丁表四行目の「これを棄却し、」まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決の理由説示中「被告」とあるのをすべて「日本国有鉄道」(以下、「国鉄」という。)と読み替える。

2  原判決三二丁表六行目の「被告」を「国鉄(昭和六二年四月一日以降は被控訴人)」と、その次の行の「との事実は」を「こと及び国鉄が昭和六二年四月一日関係法律の規定に基づいて日本国有鉄道清算事業団(被控訴人)となり、被控訴人がその地位を承継したことは」とそれぞれ改める。

3  同三二丁裏九行目、同三五丁裏六行目・七行目及び同四〇丁裏二行目の「認めることができる。」をいずれも「認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。」と改める。

4  同四五丁表四行目の「証人藤田好一」を「いずれも成立に争いのない乙第二二、第二三号証、原審証人藤田好一」と、その次の行の「次の事実が認められる。」を「次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。」とそれぞれ改める。

5  同四六丁表八行目の「ところで」から同四七丁表三行目の「いたのであるから、」までを次のとおり改める。

「ところで、労働協約は、個々の労働契約における労働条件等を画一的に規制することを目的として使用者(又はその団体)と労働者の団体との間で締結されるものであつて、労働協約が締結された場合には使用者及び労働者の双方はその協約の内容に拘束されることは当然であるが、労働協約が締結されていない場合においても、労働者(本件の場合は、動労千葉所属の組合員)は個々の労働契約(雇傭契約)上予定された範囲内において、使用者に対して労務提供義務を負い、使用者は労働者に対してその労務の給付につき指揮命令を行い得べきことはいうまでもない。そして、労働者は、使用者の命ずる労務の内容が右範囲内であれば、労働慣行に反し、社会通念上著しく不当であるなど、その指揮命令権の行使が信義則上許されないというべき場合のほか、これに従うべき義務があり、単に労働協約が締結されていない一事をもつて、使用者の指揮命令を拒否することはできないものというべきである。

しかるところ、叙上認定のとおり、国鉄と動労千葉との間には、ジエツト燃料の輸送又はその増送について労働協約が締結されていなかつたのであるが、ジエツト燃料の輸送が空港公団の依頼に基づく国鉄の正当かつ通常の業務に属することは明らかであり(鉄道営業法六条参照)、また右業務は、昭和五三年五月末以来一年五カ月にわたり、動労千葉所属の組合員により(動労千葉が動労本部から独立する以前においては国鉄と動労千葉地本との間の前記協定確認事項に基づき、動労千葉が動労本部から独立してからは国鉄の勤務指定に従うという形で)遂行されていたのであるから、国鉄が動労千葉所属の組合員に対して右燃料輸送の勤務指定を継続したうえ、その増送についても勤務指定をしたことは、労務の内容に若干の差異を生ずるにせよ、各予定された範囲内のものとして何ら違法ではなく、この点につき右勤務指定が信義則上許されないものと認めるべき事実についての特段の主張立証はない(控訴人は、右燃料の輸送は燃料の有する性質それ自体から危険性の高い業務である旨を主張するが、その理由のないことは引用理由説示四1(一)に認定説示のとおりである)。したがつて、」

6  同四七丁裏一行目及び同五二丁裏一行目の「認めることができる。」をいずれも「認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。」と改め、同五二丁表一行目の「当たるともきめつけられない。」を「当たるということはできない。」と改める。

7  同五二丁表七行目の「甲第六ないし第一一号証」を「甲第六ないし第一四号証」と改める。

8  同五三丁表三行目の「空港公団」を「もつとも、空港公団」と改め、同五行目の「出ているが、」の次に「これは、」を加え、同一一行目の「ことがその理由」からその裏五行目の「変わりはない。」までを「ことなどによるものである。」と改める。

9  同五七丁表七行目の「また、」からその裏末行の「できない。」までを次のとおり改める。

「また、本件ジエツト燃料増送反対闘争については、空港公団からジエツト燃料の増送の依頼を受けた国鉄がその正当かつ通常の業務としてこれを実施すべく、動労千葉その他の組合に対し、その実施に当たつて必要とされる具体的条件(すなわち、一日当たり二本の列車につき各五両の増結及びこれに伴う要員の増加等)を示して交渉の機会を持ち、国労千葉地本及び動労本部の二組合との交渉においてはその妥結をみたにもかかわらず、動労千葉はあくまで右増送に反対する立場から、成田空港を廃港に追い込むという目的・主張を掲げて本件ジエツト燃料増送反対闘争を行つたものであるが、前記認定のような本件各争議行為において控訴人が動労千葉の書記長として果たした役割、本件各争議行為の目的(特に本件ジエツト燃料増送反対闘争の目的・背景)及びこれによつて生じた列車運行への影響、控訴人の過去の処分歴等、叙上認定説示の諸事情を勘案すれば、国鉄が控訴人に対してした本件解雇の処分は、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してされたものということはできない。」

10  同五八丁表四行目の「これを棄却し、」を「これを棄却すべきである。」と改める。

二  そうすると、同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉卓哉 大内俊身 土屋文昭)

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